カードの向こう側にあるアート

もし、私が誰かに「あなたのお気に入りのマジックのアートは何ですか」と尋ねたら、だいたいの人が「〇〇のカードの絵」、「××のカードの絵」と答えると思います。私のお気に入りの作品はカードにはなっていない、と言ったら多くの人が驚くでしょう。マジックのアートは、カードになっているものだけではないのです――ウィザーズ・オブ・ザ・コーストが委託した、マジック:ザ・ギャザリングの設定の中で描かれた作品はすべてマジックのアートなのです。

マジック:ザ・ギャザリングのアートの中で非常に有名な作品は、間違いなくカードになっているものですが、1993年にマジックが始まってからの25年間で、プロモーション用の作品や、本やコミックのために描かれたイラストも存在しています。マジックにはコミックなどの多様な歴史がある、ということを知らない人もいると思いますが、下の写真を見てください。これは私が所有するマジックコミックで、これら以外にもたくさんのコミックが存在します。

Armada出版のマジック:ザ・ギャザリングコミックの寄せ集め

これらは、マジック:ザ・ギャザリングが初めてコミックに進出したときのもので、当初からストーリーに興味があったファンは読んでいました。1994年には小説ができましたが、それはカードのストーリーを伝えるものではなく、ただ同じ状況設定の中で書かれているだけの物語でした。上に示したコミックは、カードそのもの自体のストーリーを伝える初の試みでした。1995年から1996年にかけて、Armada出版は30以上のマジック:ザ・ギャザリングのコミックを出しました。30という数はあまり多く聞こえないかもしれませんが、その当時、カードゲーム関連のコミックとしてはかなりの数でした。

1990年代初め、コミック業界でデジタル彩色が主流になってきていましたが、Valiant Comics社のArmandaでは、伝統的な技法で彩色が行われていました。ここにリストアップしきれないほど、多くのアーティストがそれらに携わりました。Eric Hope氏はアイスエイジのコミックの彩色を担当し、最近Ebayで作品のいくつかを売りに出しました。下の絵ではこれまでカードにちょっとした説明があっただけのキャラクターや出来事が、初めて作品として描かれたものです。テヴェシュ・ザット、レシュラック、 リム=ドゥール、フレイアリーズ、クロミウム ルエル、アイエエイジを終わらせた世界呪文など、これらすべてがコミックの中で初めて出てきました。

リム=ドゥールとレシュラック (下描き: Rafael Kayanan、インク付け Rodney Ramos、彩色: Eric Hope 氏)
世界呪文(下描き: Rafael Kayanan 氏、インク付け: Rodney Ramos 氏、彩色:Eric Hope氏)
プレインズウォーカーの会議(下描き:Rafael Kayanan氏、インク付け:Rodney Ramos氏、彩色:Eric Hope氏)

1998年のジェラード・クエストと呼ばれるテンペストセットのストーリーが出るまで、マジック:ザ・ギャザリングのコミックが再び作られることはありませんでした。Dark Horse社によって出版されたこれら4冊の内容は、本やカードで全く取り上げられていないものでした。たとえば、モリンフェンとがロウブレイドによるクロウヴァクスの領地の略奪についてや、シッセイがどのようにジェラードをウェザーライトに勧誘したかなどです。下描きはPop Mahn氏、カバーはMark Harrison氏によるものです。

ジェラード・クエスト 1~4

次のマジックのコミックが出るまで、それからまた10年以上がたちました。2010年にウィザーズ・オブ・ザ・コーストは、Path of the planeswalkersというプレインズウォーカーについてのストーリを描いた、2つのコンピレーションウェブコミックを出しました。このコミックは、マジックのウェブサイトで今でも無料で読むことができ、コミックの作成に関する素晴らしい記事も読むことができます。ストーリーは複数のアーティストによって作られましたが、そのうちの何人かは Christopher Moeller氏、Izzy氏、Dave Dorman氏やDan Scott氏など、とても有名なマジック:ザ・ギャザリングのアーティストです。

ウェブコミック Gathering Forcesのプレインズウォーカーのページ( Christopher Moeller 氏 )
ウェブコミック Dark Discoveriesのプレインズウォーカーのページ( Izzy氏)

2013年、ウィザーズはIDW出版と提携して、ダク・フェイデンというコミックシリーズのために創られた人物を中心としたストーリーのコミックを4シリーズ出版した。ダクは最終的に、コンスピラシーセットの中でカードになりましたが、それ以前はコミックの中でしか存在していなかったのです。ストーリーは、盗賊のプレインズウォーカーであるダクがいくつかの次元を行き来するのを追って描かれます。中身のイラストはすべてMartin Coccolo氏 [link: https://www.artstation.com/martincoccolo]によって描かれましたが、それぞれの巻に表紙があり、それはコミックに付いてくるプロモカードに印刷された絵のアーティストによるものでした。

マジック:ザ・ギャザリング テーロスコミック表紙とプロモカード( Dan Scott氏)
マジックコミックの1ページ( Martin Coccolo 氏)

次にウィザーズがIDWと提携してチャンドラのコミックを出したのは4年後のことでした。同じ出版社から出ましたが、前に出たシリーズとはつながっていません。この記事を書いている時点で1巻しか出ていませんが、これから4巻が出される予定です。下描きは Harvey Tolibao氏 [link: https://twitter.com/harveytolibao]、彩色はKen Lashley氏 [link: http://www.ledkillaboom.com] と Siya Oum氏 [link: https://twitter.com/SiyaOum]です。Victor Adame Minguez氏 [link: http://victoradameart.com]によって描かれた別の表紙もあります。

チャンドラ #1 表紙(Ken Lashley氏)
チャンドラ #1 コミックのページ(下描き: Harvey Tolibao 氏 、彩色: Ken Lashley 氏、 Siya Oum氏 )

私はまだ直接見たことはありませんが、マジック:ザ・ギャザリングの漫画まで存在するのです。2000年に、ウルザとミシュラの間に起こった兄弟戦争を描いたMagic- Urza & Mishraという日本の漫画スタイルのコミックが出されました。10年後の2010年には、Purifying Fireが漫画として電撃マオウによって出版されました。

Magic- Urza & Mishra の表紙
Purifying Fire の絵(日森よしの氏)

この記事のはじめに書いたように、私のマジックアートのお気に入りはカードにはなっていません。私は5歳のころからコミックが大好きで、叔母の結婚式の準備を手伝い、いい子にしていたご褒美として忍者タートルズのコミックをもらいました。コミックは、私にとって生涯の友となるアートと絵描きの入り口でした。私が大好きだったゲームにコミック本があることを知り、それらを探し始めました。すぐに私は下記の2冊を見つけ、それらによって私はある1人のアーティストの虜となりました。ホームランドとセラの天使のコミックは、両方とも Rebecca Guay 氏によって描かれています。私はストーリーを楽しみ、アートも気に入りました。私が集めていたレジェンドカードの裏にはストーリーがあるということを、私はホームランドを読んで初めて知りました。センギア男爵やセンギアの太母という、マジック初期の有名な“悪役”2人ともストーリーに出てきましたし、セラのエンジェルで有名なセラも出てきます。

ホームランドの表紙の絵( Greg & Tim Hildebrandt 氏 )、セラの天使の表紙( Rebecca Guay氏)

私のお気に入りの絵は、ホームランドのコミックの裏表紙です。絵の下方ではセラとフェロッズが親密そうにしています。そしてその上には、テイザーやサンドルー、センギア男爵がぼんやりと浮き上がっています。手に握られた剣や亡霊のようなものはとても穏やかとは言えず、私はこの緊張感のある雰囲気が好きです。興味深いことは、この絵が1896年にJ.W. Waterhouses氏によって描かれた『ヒュラスとニンフたち』を参照していることです。人物の配置や、スイレンの池などはWaterhouse氏の絵画を思い出させます。フェロッズもヒュラスと同様に、いよいよこれからという時に亡くなっています―ニンフによってではなく火に身を焼かれてですが。

マジックアートには、これほどにも豊かな歴史があるのです。マジックの絵画は、世界中のファンタジーアートの中でもとても優れています。前にも述べたように、最も有名なアート作品はカードに印刷されているものですが、カードにならないマジックアートも山ほどあるのです。マジックが出た当初から、ビジュアル付きの物語がマジックそのものを創り出しています。文字と絵が一緒になっているコミック以外に、もっと良い媒体など存在しないと思います。

ホームランドの裏表紙( Rebecca Guay氏)
ヒュラスとニンフ(John William Waterhouse氏)